今まで知らなかった感覚は恐ろしいもので、怒涛の如く押し寄せるものが快楽なのだと私は気付かない振りをしていた。けれど知らぬ間に涙を零していた。
何かに縋り付かなければ感覚を遣り過ごすことは到底できそうもなく、手は宙を切るが結局目の前に在るのは己を苛み今現在正に進行形でこの感覚を己が身に齎している彼の体だけだ。ああ、こんな理不尽なことは無い。堪える為に苛む者へ頼らなければならないなんて、そんな、馬鹿なこと。
「辛い、か」
耳元で問われる声に頷くこともできずただただ、肩を掴む手にぎゅっと力を込めた。彼は痛みを堪えるかのように一瞬眉根を寄せたが痛いのは寧ろ私の身体の方でぎちぎちと広げられてゆく感覚にくらりと眩暈すら覚えた。もしかするとそれは錯覚などではなく実際に世界が揺らいでいたのかもしれない。
兎も角も与えられる衝撃は半端ではなかったのだ。
「柳生」
ああほら、彼はまた。
「にお、く……んっ」
奥を突き上げられれば押さえきれない声が零れた。鼻に掛かったような声はまるで自分のものではないように思えるけれども確かにこの口から、発されている。それは事実だった。
名前を呼べば気付いた彼は汗で張り付いた私の前髪をほんの少し横に流し啄ばむようにキスをする。触れ合う肌と肌の感覚は汗で湿りそして熱い。熱くて、熱くて。
「柳生」
名前を呼んで貴方はまたキスをするから。触れ合った所から身体は溶けてしまい、呼吸ごと全て奪われて私は、私は。
第一次相転移
07.11.07 H