※性描写が含まれます。18歳未満の方は閲覧をご遠慮下さい。身も心も18歳以上の方はスクロール。























「怖いか」

 と問う。その声が擦れていて柳生はほんの少し笑った。仁王はぴくりと眉を上げたがそれ以上は何も言わず、ただ黙って柳生の頬を撫でた。するり、と滑る指先。感覚だけでそれを追う。視線は真っ直ぐで、互いの眼の中に像を結んでいる。

「怖く無いですよ」

 柳生は震えてしまいそうになる声を堪えてそっと微笑んだ。そして手を伸ばした。触れたのは銀色の髪で、いつも仁王が後ろで結んでいる紐をゆっくり解く。ぱさりと音がした。それは髪が落ちる音で、仁王が柳生にキスをすれば二人の世界は銀色に遮断された。
 侵入する舌を迎え入れて柳生は喉を鳴らす。飲み込みきれない唾液が顎を伝って流れた。糸を引いて離れた唇と、不意に感じる外気の冷たさに柳生は瞳を揺らす。しかし不安は無い。仁王の指が眼鏡を外した。ベンチの上に置くと、フレームが音を立てる。カチャリと、その音を柳生はひどく虚ろなまま聞いていた。虚ろなのは意識だけで感覚は研ぎ澄まされている。瞼を閉じているからだろうか。触れる仁王だけが感覚の全てで、その指が頬から首を伝っていることが解る。ゆっくりとした所作はけれど、確実に柳生の性感を煽りきつく眉を寄せた。思わず唇を噛んでしまったのは溢れる声を堪える為だ。
 だってここは部室だった。幾ら今日が休養日だとは言え、いつ誰が来るかは知れない。鍵を掛けていても不安な事は多々ある。寧ろそのスリルが余計に己を高めているのかもしれないと云う事に柳生は気付かない振りをした。認めてしまえばもう言い訳などできない。

「声、出しんしゃい。誰も来んよ」
「や、で…す……っ」

 声が上擦る。いつの間にか服の下に這わされていた手が悪戯に蠢くからだ。柳生はそれでも抵抗しない。求められていると云う事、それ自体が嬉しくて仕方が無いのだ。ちゅ、ちゅ、と音を立てて肌に散る赤に思うのは歓喜。声も身体も震え、柳生は仁王の背中に腕を回した。湧き上がるのは仄暗い感情。独占欲と云う名の、愛情だと気付いたのはいつの頃だろうか。

「柳生、舐めて」

 右手の指が強引に唇を割る。舌を悪戯に引っ張り、口内を縦横無尽に蹂躙する指に必死に唾液を絡めながら、柳生は段々とぼやけてくる思考と疼く最奥に、ちかちかと脳裏で光が点滅するような気がしてならなかった。指が引き抜かれた瞬間の柳生は、玩具を取り上げられた子供のように至極落胆に満ちた表情を浮かべる。しかし彼自身はその事に気付かない。その事に仁王はほくそ笑む。二人が身体を繋げる事は何も初めての事ではない。部室で行為に至るのは流石に初めてではあるが、仁王に慣らされた身体は簡単に蕩けてしまう。自分が自分ではなくなる感覚。怖い、と泣き叫んだ初体験はもう過去の事だと柳生は後孔の襞を軽く引っ掻く仁王の指に思う。柳生はそこで得られる快感を、知っていた。覚えていた。仁王に覚えこまされた。

「ぁ…くぅ」

 きつい。しかしその圧迫感も始めの内だけだ。ぐるりと円を描かれ爪先まで引き攣らせて震える。仁王はしかしそんな柳生を一瞥しただけでまた舌なめずりをして指を動かす。ぐずり、と溶け始めるのは後孔だけではなく意識もだ。音を立てて崩れてゆく。いつの間にか増やされた指にも気付かない。柳生はただ酸素を求める魚のように息を吸い込む。そして吐き出す。
 繰り返し繰り返し訪れる快楽の波に呑まれまいと柳生はきつくベンチの上で手を握った。足を大きく開かされると秘部が全て仁王の眼前に晒される。低く、笑う声が柳生の鼓膜を犯す。
 身体中に仁王が触れていない場所など無いような錯覚すら感じる。熱に浮かされながら全身に施される愛撫に悶え、声を上げた。向き合う二人はただ只管に互いを貪り合う。非建設的な行為だとわかっているのに。只快楽を追うだけの行為だとわかっているのに。行為からは何も生まれない。けれども。

「いや、やぁあっ、にお、く…んっ」

 柳生は無我夢中で背に爪を立てる。灼熱でぐいと内壁へ押入りながら、肩に背に走る痛みに仁王が眉を寄せた。そして笑みを口の端に刻む。ハァ、と肩で息をすれば何じゃと微笑み乱暴に口付け、寧ろ呼吸を奪うと言った方が正しいような激しいキスを仕掛けて、そのまま柳生の最奥を突いた。何度も。何度も。その度に柳生は背を撓らせて声を零す。
 揺れる銀の髪が視界をちらちらと舞う。柳生は一層早くなる律動に翻弄されて子供のように声を上げるしかできない。とろとろと既に先端からは先走りの蜜が溢れている。もう、張り裂けてしまいそうな程だった。けれど快楽を齎されるその相手の指によって戒められた自身は解放を許されずぐるぐると熱が渦巻いている。おかしくなってしまいそうだ。自身は戒められているだけで触れられてなどいないのに。後ろの孔を犯されてそれだけで達してしまいそうになっている。だから、嗚呼、と柳生は呟いた。瞬間、仁王が中で弾けた。どくり、と注がれる精液。

 怖いのは貴方無しでは生きられなくなってしまった私だ。

 口には出さずとも思う気持ちをたった一粒の涙に込めて、柳生は小さな声を上げて、果てた。





ここにある

08.02.08 H