別段触れられることに抵抗は無いのです。と言っても恐らく目の前でまた難しい顔をしている仁王くんは信じないだろう。けれど真実、触れられることは(それは彼の手に限られるけれどでも)本当に、怖くはないのだ。
「大人しゅうせんか」
「いや、です、よ」
ぐぐ、と力を込めて胸板を押し返そうとするがそこは彼も手馴れたもので、私が上げた手の隙間からするりと脇腹を撫でる。心構えをしていないところにもたらされる刺激というものはとても厄介で、私はまるで私ではないような、そんな素っ頓狂な声を上げることしかできない。それがひどく滑稽で、セックスは女役であるけれどやはり根本的に男である私は、悔しい。
今もひあ、とか何だとかもう、言葉になっていないような声を不本意ながら上げてしまい、そして結局仁王くんの目論見通りに突っ撥ねていた手が宙に浮いた。そこを逃す彼ではない。仮にもコート上の詐欺師と呼ばれ実生活でも詐欺師を嘯いている彼の経験値は、私よりもずっと、そうはるかに、上なのだ。それも私は本当のところを言うと少し、いやかなり、悔しい。
結局彼との性交を避けたいと咄嗟に手が出てしまうのはこの辺の内情が関係しているのだろうと、私は他人事のように考えている。そして更に理由を挙げるとすれば、彼の手が問題であった。ピアノでも弾くかのように肌の上を走る時に広がる感覚。それはとても、素面でいられるような快感では済まず、感じすぎてしまい理性が焼き切れてしまうことも多い。
私を失うことが、私はとても怖かった。
仁王くんは悪戯に口角を吊り上げいやらしい笑みを浮かべてみせる。こうして触れ合っている時の彼はまるで獲物を狙う肉食獣のように爛々と目を輝かせていて、その瞳の中に映る自分の頼りなく揺れる感情を見るのは絶対的な優劣の差を見せ付けられているようで、あまり好きではない。けれどどうしても揺らいでしまうのは、偏に経験値の不足からなるものだろう。
突っ張りを失い宙に浮いた手を、眼前で微笑んでいる仁王くんがゆるりと撫でながら、快楽の琴線に触れながら絡め取る。そうして真っ直ぐに見据えられて視線を背けることすら許されないまま、手の甲にちゅと音を立てて口付けられれば私はもうどうして良いのかさっぱり分からなくなってしまう。結局、抵抗は形ばかりで、最後まで彼に抵抗できたためしなど無い。
白い。真っ白な世界。スパークして視界が彼の髪色と同じ白銀に塗り潰されてしまった。
「柳生」
視界に迫るのは、白銀の髪を靡かせた仁王くんだ。そして名前を呼ばれて次にされることは経験上簡単に予測できた。ああ、キスをされている。やはり何度か体を重ねたけれど、彼は名前を呼んで優しい微笑みを浮かべた時は決まって、優しいキスをする。
そうだ、キスをされて瞼を閉じてしまえば後はもう有耶無耶だ。
「だからやめえ、言うたじゃろう」
確信犯的な笑みを浮かべた彼を認識する。けれど蕩けてしまった脳は正常な思考を取り戻すことは無かった。赤く覗く彼の舌を求めてそっと両手を伸ばせば、笑みを浮かべた仁王くんはゆっくりと、唾液すらも飲み干すような勢いで溶けてしまいそうなくらいに熱い、キスをしてくれる。
仁王くんのキスはさっき食べたいちごの味が、した。(そしてそれはとても、甘かったのです)
ストロベリィ
07.11.18 H