白いシーツが、ベッドの上でもぞりと動く。
布団の中から顔を出したのは、未だ寝惚け眼のままの財前で、ぼんやりとした思考を追い払うように頭を横に振ると、そのまま横に手を伸ばした。しかしその手は何に触れることもなく、一緒に眠ったはずの体温は何時の間にか消えてしまったようだ。
「何か、ええ匂いする」
くん、と鼻を鳴らし、掠れた声で紡いだ言葉は朝霧に溶けてしまいそうな程、小さくて。微睡みの中でふわふわと彷徨う思考を纏めきれずに、ぼんやりと辺りを見回した。
「おー、起きたん?」
丁度部屋の扉が開き、お盆を片手に部屋に入ってきたのは手を伸ばした先、求めた人の姿で。いい匂いの発祥はここか、と財前は未だ覚醒し切らない頭で、納得した。ベッドサイドに置かれたのは、湯気を立てるココアと、フレンチトーストだ。
「起きや、そろそろ部活遅刻やで」
「……うるさいっすわ」
再び布団を頭から被ろうとすると、肩を揺すられて、反転した先に目に入ったカーテンの隙間から入り込む太陽光が、白いシーツに反射して眩しい。
「起きてるか?」
訝しげに覗き込む謙也の襟元を軽く引っ張って、強引に口付ける。
「おはようのちゅーせな起きません、言うたらどないするんですか」
驚きに目を瞠る謙也を尻目に、軽く舌を絡ませて唇を舐めた。な、な、何すんねん! と、一人百面相をしている謙也を見ていると飽きない。何度も何度も、キスもそれ以上のこともしているのに、いつまで経っても謙也は、謙也のままで変わらない。
「ちゅーか謙也さん、味見したでしょ」
「え?」
「口ン中、甘かったっスわ」
襟元を掴む手をぱっと離し、悪戯に笑んでみせれば、謙也は朝から何をと顔を真っ赤にしたけれど、でも、それは本当のことだったのだからまあ、兎も角、しゃーないっすわ、ということだ。
おはようのかわりに
09.11.11 11.01ペーパー再録 H