※性描写が含まれます。18歳未満の方は閲覧をご遠慮下さい。露骨な言葉も出てくるので苦手な方もご注意。身も心も18歳以上の方はスクロール。























 この年になって、誕生日がどうだこうだと言うつもりはなかった。しかし謙也が「20日、うち泊まりにこん?」と、斜め上に視線をずらし、赤い頬を隠すように顔をちょっと背けて誘ってくれれば、財前は素直に嬉しいと、思った。だから二つ返事で頷いてしまったのだ。それがまさか、こんな事になるだなんて。


 折角の祝日だと言うのに、今日も今日とて部活だった。夏は始まっているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。しかし、部員にはやたらおめでとうと言われ、レギュラー陣にはケーキまで準備して貰えて、満更でもない気分を味わえたのは良かったのかもしれない。
 そして部活終了後、そのまま向かった忍足家。お邪魔しますと門を潜れば、いつも愛想の良い謙也の母と弟が出迎えてくれた。「まぁ、よう来たねえ。ゆっくりしていきや」「あ、財前くんや」と何でもないように言いながら夕飯では「誕生日おめでとう、財前くん。いつも謙也がお世話になってるから、今日はケーキ焼いてみたんやけど」「アホ謙也がお世話になってまーす!」「何でやねん!先輩は俺やろ、こら、お前まで何言うてんねん!」何て親子漫才をしている三人に財前は開いた口が塞がらなかった。わざわざ家族にまで話を通しているとは。驚きと込み上げる喜びに、顔を赤らめ小さく「有難うさん、です」と呟くくらいしか出来なかったのだけれど。
 謙也の母が焼いたケーキを食べながら談笑する事一時間。時計の針はは既に十時を回っていて「お風呂に入ってきなさい」と云う合図でお開きになった。満たされる。じわりと広がる温かな忍足家の空気が、財前は好きだった。


 先に風呂へ通され、謙也と交代で部屋へと上がり準備された自分用の布団にごろりと体を投げ出すと、財前はふうと息を吐いた。一人で居る、謙也の部屋。いつも誕生日は家で家族と過ごしていた。こんな風に他人に祝われる事は初めてで、どうして良いのか分からないおかしな昂揚感にごろりと寝返りを打つ。この布団にも何度世話になったことだろう。ぼんやりと思考を巡らせている間に風呂上りの謙也がやって来て、「ざいぜん、」と呼んだ。扉を開けっ放しの扉に背中を向けていたから、気付かなかったらしい。もしくはぼんやりしていたのか。兎も角呼ばれて振り向いた先には謙也が居た。そろそろと布団から体を起こし、「お帰り」と言うと、後ろ手に扉を閉めた謙也がへにょ、と笑った。(……へにょ?)
 擬音で形容するのもおかしな話だが、事実謙也はそんな風に笑ったのだ。謙也は時々本当に、無防備になる。いつもは気を張っているのかと言えばそういう訳でも無いのだけれど。けれど、誰にも見せないような表情を財前の前でする事は確かに有って、それが、きゅんと、心臓を擽るのだ。(きゅん?おかしいやろ。ないない)


 財前が一人で脳内で葛藤を繰り返している間に謙也はそっと財前の傍まで歩み寄って、布団の脇に腰を下ろしていた。そしてゆっくりと財前のへたった黒髪を梳く。緩やかに、緩やかに。流れる時間すら穏やかで、一瞬瞠った目を、結局細めてその手のひらの感覚を甘受する。(温かいんやもん。風呂上りやから?そんなん、どうでもええんやけど、な)
「何、ですか、謙也先輩」
 薄っすら瞼を開いている財前の問い掛けを、封じ込めるかのような、キス。覗き込まれて啄ばむような、軽いキス。そのまま布団の上にどさりと倒れて、見上げた視界は謙也の色でいっぱいだった。視界だけではない。齎される感覚全てが、謙也に起因している。
「誕生日、おめでとうな」
「今日五回目ですよ。日付変わった時電話で聞いて、朝聞いて、部活で聞いて、さっきの飯の時も聞いたし」
「せやかて、言いたいやん?折角誕生日やねんから、最初から最後まで祝ったろ思て」
 時計の針は刻一刻と時を刻んでいて『今日』と云う日はもうあと一時間も残っていない。財前、と。照れた色を滲ませて紡がれる名前が本当に自分の名前なのか、そうでないのか、よく分からないような錯覚に陥ってしまうのは偏に、財前が柄にも無く緊張しているからだろう。思考がこんがらがっている。しかしそれを謙也に悟られてはならない。いつだってせめて、余裕ぶってはいたいのだ。何てことはない。それくらい。自分がどれだけ謙也の一挙手一投足一言葉に反応しているのか、なんて知らなくて彼は良い。これは最早意地だった。


 至近距離で見詰められて、熱を孕んだ視線に息を呑む。いつも通り平静を装って、と心の中で幾ら思ってみてもそれが上手く行かなければ意味などない。手のひらにじわりと広がる汗。喉が渇く。何かを紡ごうと開いた唇は、言葉ごと封じられてしまった。熱い舌が、ぬるりと咥内を侵す。今日は家族も居るのに。こんな風に流されては駄目だと理性で分っていながら体がついていない。息苦しさを覚えて鼻を鳴らして舌を押し返そうと差し出した舌を絡め取られて唾液が混ざり合う。水音が鼓膜を揺らしてぼんやりと思考が飛んでゆく。(アカンアカンアカン、)心とは裏腹に、震える手は謙也の背中に回されていた。寝巻きにしているTシャツを掴み、皺が走るその様を冷静な自分が見ていた。(やって、止まる訳、あらへん)
「ん、…ッ……謙也、く」
 キスをしながら服を捲くられて、借りた少し大きなTシャツで隠されていた素肌が露わになった。口付けは角度を変えて続き、互いのどちらともつかない唾液が顎を伝う。臍の辺りでもどかしく熱い手のひらが肌を伝って、胸元の突起を緩く捏ねられて、財前は面白い位に跳ねる身体に絶望を覚えた。(有り得ん、やろ。もう、)謙也が咥内を嬲るように舐めたり舌を緩く引っ張ったり、乳首を摘んだり緩く円を描くように撫でたりする内に、寝巻き用の緩いジャージに隠されている下半身は完全に勃起していしまった。触れられてすら居ないのに。どういう事なのだと問い掛けた所で、疼くのはその奥だと知って居る。
「可愛え、財前」
 漸く唇が解放された時には、足りない酸素を補うように大きく胸で息をしなければならなくて、いつの間にか胸元までたくし上げられていた服の所為で、財前の尖った乳首は白日の元に晒されていた。謙也は労るように財前の頭を撫でながら、そっとその突起に舌を這わせる。知って居る。ぬるつくその感覚を。時折歯を立てるように柔らかく食まれて、あ、あ、と断続的な声が漏れた。ぐずぐずに、解けていく理性。最初から、視線を交わした時から抵抗する気などさらさら無かったのだけれど。謙也に求められて、逆らえる訳が無い。
「もう、や…ン、そこ、ばっかりやなく、て…」
 執拗に乳首ばかりを舐めたり吸ったりしていた謙也にいい加減じれったくなって、財前は足を擦り合わせながら胸元でもだつくその頭をくしゃりと撫でた。限界なのに。とろとろと先走りばかりで、パンツはもう濡れてしまっていて気持ち悪いのに。顔を上げた謙也を、眉を寄せて涙が溜まる眼差しできつく睨む。
「どこ、触って欲しいん?」
 今日に限って謙也は意地悪に笑って見せた。言える訳が無い。唇を噛んで視線を逸らす財前の尖りてらてらに濡らされた乳首に、謙也はふうと息を吹きかけた。びくびくと、体が震えて財前はくぐもった声を漏らす。隣は弟の部屋で、更にその奥は一つ空けて両親の部屋で。家族が居るにも関わらずこんな事をしている実際を考えてどうしようもなく興奮していた。謙也も、財前も。声を潜めて。スリルはセックスのスパイスになるんやで、なんて白石が笑いながら言っていた事を謙也は密かに思い出していた。だからどうだと言う事でもないのだけれど。
「言うて、み?」
 耳を、外したピアスの孔を舌で緩く舐めながら謙也は先を促す。先程から一度も、張り詰めた性器には触れて貰えなくて、気がおかしくなりそうだった。自ら触れようとすれば駄目だと手を払われ、触れてと言えば駄目だと乳首を苛められ、もう、どうして良いのか分からなかったのだ。(謙也君のアホボケカス、普段はヘタレなくせに、ああ、もう、アカン、気持ちええ、から)
 とろりと潤んだ目で、悔しさを噛み締めながら財前は酸素を求める魚のようにぱくりと口を開けた。そっと耳元に唇を寄せて、小さな声で、囁く。
「俺の、……ちんちん、触っ、て。謙也先輩の、…はよ頂戴、や」
 どくり、と心臓が波を打つ。自分が何を言ったのか、何て理解はもう捨てた。ごくりと喉を鳴らした謙也が手を伸ばして、乱暴に財前の下半身を剥いて下着を剥ぎ取って、溢れる先走りを塗りつけるように擦られて呆気無く財前は果ててしまった。はぁ、と息を吐く暇も与えられず今度はその滑りを利用して指が後孔に侵入する。(足りん、そんなんやったら、足りん)乱暴に指が引き抜かれて、荒い息遣いと共に謙也の性器が後孔に擦り付けられる。ひくつく内壁は、先端を飲み込もうと蠕動した。ゆっくり、ゆっくりと満たされていく、空白。馬鹿みたいに腰を振ってキスをして求め合って、結局受け入れたまま二人揃って精を吐き出したのだった。




「ホンマは昨日の夜泊めて、エッチしながら誕生日っちゅーのもええかなァ思たんやけど」
「アホちゃいますか」
 セックスの後、何でもない事のように言われた言葉に財前は頭が真っ白になる気がした。そして、一蹴した。本当にそんな事をされていたらきっと今日一日顔も見ずに、ましてや口も聞かずに終わっただろう。恥ずかしい。羞恥心が勝るに決まっている。火照る頬は自覚していた。怠い腕を持ち上げて両手で頬を挟めば熱さに眩暈がしそうだったから。

「顔真っ赤やで、…光。」

 誕生日、おめでとう。

 秒針がカチと音を立てて、十二時を過ぎた。(ああ、今日が終わってしもた)





あまい、あまい。

09.07.23 H :光誕、おめでと!