強情で意地っ張りで、負けず嫌いで。
 謙也先輩と俺の共通点と言えば、そんなところだ。似ていないところの方がずっと多いけれど、似ているところも確かにあって、そこがぶつかった時は少し面白い事になる。

「も、ええです、って」

 同じ布団に潜り込んで、まるで合宿のような夜。先に悪戯を仕掛けたのは謙也先輩だった。わざと、ぶつからないように背を向けていたのに。急に抱き締められて、心臓が跳ねた。
 重なる体温。パジャマ越しに伝う肌の温もりは、とても生々しいものでぞくりと肌が粟立つ。俺がこうなることを知っていてやるのだからまた、意地が悪い。しかし謙也先輩が意地悪だけでそうしているわけではないことは、いやと云う程理解している。だから厄介なのだ。本当に。

「あかん。……今日は財前が、先や」
「そんなん、どっちでもええやないですか」

 抱き締められて後ろから背中に頭をぐりぐりと擦り付けられる。思わず寝返りを打てば、目をしぱしぱとさせながら謙也先輩の額が俺の額とぶつかった。窺うように覗き込まれて、小さく息を吐く。なるべく、どうでも良いと聞こえるように。細心の注意を払って。

「眠いんやったら、寝なあかんやろ。明日も部活やのに」

 今日は日曜日。明日は月曜日。明日は勿論部活が有る。そんな事は謙也先輩も解っているはずなのに。昨日も俺より先に寝てしまったから、と、強情に起きていようとするこの人の瞼はもう半分以上下がっている。
 おやすみ、と言って抱き締めたら、腕を差し出されて頭を乗せるように促された。せめてこの要求くらいは、と。じいと見詰める謙也先輩の目は眠気に潤んでいて、俺はそのまま頭を乗せて瞼を閉じた。安堵したのか頬を撫でて、小さな声でおやすみ、と。耳元を揺らす吐息に、身体が震えたのを気付かれる間も無く結局、謙也先輩はあっと云う間に夢の世界へと旅立ってしまった。腕枕をされて、もう片方の腕を背中に回されているから俺も身動きは取れない。自由になる腕を持ち上げて、くしゃりと頭をなでて、小さく笑った。

 こうやって寝るんが一番安心するから、ホンマに気にせんでええんやって、何で気付かんのやろ。アホな謙也先輩。





腕のなか

09.06.09 H