※原作には無かった(だろう)設定で幸村が車椅子に乗っています。大丈夫な方はスクロール。
くしゃり、かさり。
車輪で、足で、踏み潰す。乾いた音が鼓膜を震わせる。幸村と真田が歩む道に敷き詰められているのは命の残骸だった。美しかった筈の赤と黄を踏み締め、二人は風の中を前へと進む。
「無様だな」
幸村は車椅子に乗ったまま、振り返って微笑んだ。その笑みはひどく酷薄で、グリップを握っていた真田の手が一瞬、強張る。
「何かあったのか」
「別に、そんな訳じゃなくてさ」
ふいと視線を逸らした彼は、空を仰いで言った。風がまた枝にしがみ付いていた命を、攫っていった。そして描かれる軌跡は鮮やかに夕陽に煌く。色を失ってさえ、その軌跡は美しい。
「だって汚いと思わないか。こんなになってまで綺麗なんだもの」
背中を向けている彼の、言葉の意味を理解するまでに二度の瞬きを必要とした。苦笑を浮かべたのは恐らく、彼らしくない言葉にだ。幸村の弱音など、滅多に聴けるものでは無い。
そもそもが強い男なのだ。人前で心象を吐露すること自体が珍しい。笑みを頬に刻み時に鋭く指示を発し、人の輪の中心にいても彼はいつだって孤高で孤独だった。そしてそれに気付けるだけの時間を、真田は幸村の傍で過ごしていた。
「矛盾しているぞ」
「分かっているよ」
静かに、静かに溜息を吐いた少年の表情は見えない。しかし向けられた肩が、微かに揺れた。それだけで十分だった。
「大丈夫だ、お前なら」
キィ、と車輪が音を立てる。地表に落ちた儚い命を巻き込みながら、邁進する。
「……分かっているよ」
枝から離れ地表へ散った葉の数々は明日へ繋がるものだと理解はしていた。それらは地中に還り、養分と成る。だから離散が意味するのは終焉ではなく本当の意味での、回帰だ。
「お前の帰りを、待っているからな」
一際強い風が吹いた。ざあと音を立てて葉が散った。同時に零れる、軽やかな笑声。
「負けやしないさ」
平素と変わらぬ微笑みを浮かべ、膝の上に落ちた枯葉を一枚手に取ると幸村はきつく握り締めた。掌の中で瀟殺される断末魔。開いた掌からは欠片が、零れ落ちた。
回帰する足音
07.12.23 H