いつだって唐突で真っ直ぐで、だから逃げる事は許されない。違う、逃げる隙を、与えてくれない。今みたいに冷たい床の上に転がされて、困ったように眉を下げている転がした張本人を見上げて、俺はどこか他人行儀にそんな事を思う。

「冷たい」

 文句を言う口を塞がれた。冷たい床の温度と、上がる体温が相反して感覚が麻痺する。温む。呼吸が苦しくて僅かに開けた唇を割って入るのは先輩の舌。ぬるりと蠢く舌が、咥内の至る所を探る。ん、ん、と、くぐもった声しか出なくて、苦しくて、俺は先輩の肩をきつく掴んだ。それでも動物みたいなキスは終わらなくて、意識を取られている間に今度は先輩の熱い掌が服裾を捲り腹を辿った。
 ああ、ここは部室で、まだ昼休みなのに。ぼんやりと霞みつつある思考の中で理性が最後の警鐘を鳴らすが、とっくに答えは出ていた。唇が糸を引いて離れる。ぐちゃぐちゃに混ざり合ったどちらのものともつかぬ唾液が頬を伝う。ごくり、と喉を鳴らす先輩を仰ぎ見て、もう止まらないだろうなと、確信にも似た予感が、する。

「財前、あん、な」
「謙也、先輩。……ええ、から」

 言って襟元を掴んで強引に口付けたら、先輩は驚いたように一瞬目を瞠った。けれどそれも一瞬だった。何故ならば俺は視界を閉じてしまって、世界を遮断したから。感じるのは触れ合う唇の感覚と、再び意図を持って動き始めた先輩の熱い掌。そろりとベルトに伸びてカチャカチャと外される音がする。抜き取られたそれも床に投げ捨てられた。金属音が響く。
 耳朶を噛まれて肩を竦めた。そのまま耳殻を舌でなぞられ、耳孔へと濡れた舌が侵入する。幾度かのセックスで、先輩はもう俺の弱い所を知っていた。

「っ、あ、」

 甲高い声が漏れる。とても自分のものとは思えないような、声。俺は重い腕を持ち上げて、先輩の頬に触れた。その手を取られて甲に口付けられて、絡め取られて後はもう、済し崩し、だ。





熱に浮かされる

09.05.21 H